3周年を迎える2020AWでは、ブランドコンセプトである仕立てについて見つめ直し、
更なる追求をしています。

Designer Interview

3rd Anniversary Special

Satoshi Waki

Tylor with Respect Founder / Eyewear Designer

SEP. 11. 2020
@Sabae Fukui Japan

脇 聡 / ソウウェルデザインオフィス代表 アイウェアデザイナー

1972年兵庫県神戸市生まれ / 兵庫県加古川市出身。金沢美術工芸大学美術工芸学部、及び同大学院修士課程
2000年より大手眼鏡商社企画にて国内外有名ブランドの企画デザイン、及び眼鏡企画デザイン会社のオリジナルハウスブランド、国内外有名ブランドの企画デザイン、生産管理、営業を経験する。関わったデザインのアイウェアは眼鏡展示会での受賞や福井県内博物館所蔵品にもなっている。現在、京都精華大学プロダクトコミュニケーション学科非常勤講師。同大学にて前期必須選択科目のアイウェアデザイン授業を担当。

ーー 眼鏡産地鯖江との出会い

 大学に通っていた金沢から、20年ぐらい前に鯖江に来ました。そこでまず眼鏡の仕事についたのですが、それがこの業界に入ったきっかけです。最初は大手眼鏡商社に就職し国内外の有名ライセンスブランドのデザインに携わりました。10年ぐらいはそこにいましたけど、そのあと別のまた眼鏡の会社に所属し、プライベートブランドの企画デザイン生産管理、営業などに携わりました。2017年の春に独立し、自身のブランド「テイラーウィズリスペクト」を立ち上げ、今年の10月でブランド3周年になります。

ーー ブランドを始めた理由

 20年近く眼鏡に携わってきて、そのそれぞれの立場で自分なりに眼鏡を追求をしてきた中で、さらに自分の理想を追い求めてみたい、近づきたいという願望があったので、自分の年齢も考えてちょうどいいタイミングだと思いまして。本当に眼鏡は、いろんな人の関わりがある中でできるものなのでメイドインジャパンの、産地でしかできない、いいものを作っていきたいと思っています。その方々へのリスペクトの思いを込め、ブランド名にwith Respectという言葉を付けました。

20年近く使い続けているノギスとペン。
デザインに使う道具にも、愛情を込めて大切に使用している。

ーー ブランドコンセプト仕立てについて

 一般的には、”仕立て”という言葉は洋服のことを思い起こすと思うのですが、自分のやってる行為やものが出来上がっていく様、材料を吟味して技法を吟味して、一つのものに仕上がっていくことを表すのに、これほどぴったりくる言葉はないと感じまして、ブランドコンセプトとして掲げました。

ーー 自分のルーツと重ねて

 実は昔、祖父が「和氣養福堂」という仕立て屋を四国でしていました。テレビが家庭にまだない時代にカラーテレビを買ったり、バイクにも拘っていたり、とてもハイカラな人でした。祖父が仕立てたスーツは持っていて、今でも事務所に置いているんですよ。生地をイタリアから輸入したり、こだわりがとても強い人だったみたいでこのスーツもしっかりとした造りになっているんですよね。自分も、眼鏡の構造的な部分だけではなく、表面の仕上がり感まで考え、独自の表面処理などにも、積極的にトライしています。そういうあたりは祖父の影響もあるのかもしれません笑

実際に四国にあった祖父のテーラー「和氣養福堂」。

ーー フィッティングしやすい眼鏡でありたい

 ”仕立て”というこの言葉を連想しますと、一人ひとりの体の特徴に合わせて丁寧に作るイメージだと思うのですが、このテイラーウィズリスペクトの眼鏡もそういう思いでデザインをしていまして、つまり、プロダクトとして存在するだけではなく、使っていただくユーザーの方々一人ひとりに合わせて”仕立て”ていく眼鏡でありたいんです。ですから、最終の仕立てをしていただく小売店の方々にとってもフィッティングしやすい眼鏡でありたいなと、そう思っていまして、そこでパーツを定期的にアップデートし、常に改善を加えて仕立て直し、できるだけ理想のものに近づけたいなと思っています。

ーー 1/10mmの拘り

例えば、ヨロイを製造するときには、鍛造(たんぞう)を選んでいるのですが、それには理由があります。もちろん鋳造(ちゅうぞう)でもこの形はできるし、そうすれば費用も安くもできます。けれどもそうしますと、調整時に折れる可能性が出てしまう。自分の今までの経験でも、その点に苦労されている眼鏡屋さんがいましたので、部品に関しては、金属に粘りがある鍛造を使うようにしています。そこは1/10mm単位で拘り、今回もアップデートをかけました。

鍛造(たんぞう):
金属を叩いて製造する=プレス。日本刀などの製造に使われる
鋳造(ちゅうぞう):
金属を溶かして型に流し込む=キャスト。
古くは、奈良の大仏 お寺の釣鐘など。製造工程は短く金型は安いものの、金属組成が荒いので粘りがなく割れやすい

パーツ一つ一つを丁寧に仕上げるためには、図面を正確に起こすことは重要な作業。

jux制作時に描いたラフデザイン。最近は、手書きだけではなく、iPadのペンを利用しデジタルデバイス上に直接描くことも多い。

ーー 趣味について

車・バイク
 最新のバイクはあまり好きではなく、日本製なら80年代のものが好きです。味もありながらちゃんと走れる、見た目よし乗ってよしの当時のバイクに憧れます。ホンダのCB750Fに乗り、その後GPZ 900R 1986年製を所有しまして、学生時代から数えると約25年いまだに乗り続けています。オフロードバイクや、ベスパにも乗りました。ベスパはエンジンからチューニングしてましたね。
 車は、1971年式のフォルクスワーゲンビートル(Type-1)から入り、その後、1966年式に乗り換えました。他にも、ボルボV70なども所有していました。去年の年末から現在のモーリスミニトラベラー(1960年代)をブランドの営業車として乗っています。年代物の車ですし、手に入りにくいパーツもありますので、金属パーツが壊れた時には自分でよく直しています。つくづく自分でも金属フェチの作家だなと感じています笑

モーリス・ミニ・マイナー・トラベラー 1960 - 1969
標準的な2ドアのエステート、観音開きバックドア。木製の飾りフレームがあしらわれている。ビートルズのメンバーや、イギリス女王であるエリザベス二世もオーナーだった。

映 画
 小さい頃から映画は好きですね。新しい古いは関係なく、興味の湧いたものを観てきました。例えば作り手側の視点から考えるもの好きで、構図や光などの見せ方も勉強になりますし。キューブリックの「時計仕掛けのオレンジ」とか、斬新な終わり方に衝撃を受けた「自転車泥棒」ですとか子供の頃にはチャップリンを観たり、大人になるとミスタービーンを観たりしてますが笑

音 楽
 中学の時にちょうどCDが世に出て、そのとき一番最初に買ったのがビートルズ。時代は80年代で、デビットボウイやスティングからポリスにたどり着き、イギリスのバンドを中心に聴いてました。ボウイはティンマシーンが嫌いでやめましたけど笑。 パンクやスカ、ニューウェーブも聴いていて、スペシャルズとかツートーン、マッドネスあたりも。モッズムーブメントにはだいぶ感化されまして、ジャムとかポールウェラーも好きでしたね。大学時代にベスパにも実際に乗りました笑 大人になってからもクロケット&ジョーンズの靴を買ってみたり、M-51を羽織ってみたりこうして考えると未だに当時の影響が抜けません笑 アメリカ系の音楽も、十代にスティービーワンダーに目覚め、20代ごろは、ニルヴァーナとかベックも聴いてました。

ーー 3周年を迎えて

 まず最初に、ブランド立ち上げから関わっていただいた関係者の皆様、小売店の方々、購入していただいたお客様に感謝の気持ちを伝えたいです。本当にブランド3周年なんて赤ちゃんのようなものだと思いますし、あまり大々的にするつもりもないですが、せっかくの機会なので3周年を記念した企画をいくつか考えていまして、Webにも簡単な専用ページを作っています。3周年を迎える10月からの受注には、専用の純鹿革のセリートを付けたり、少しでもお祭り感を出せればとは思います。

 まだまだ未熟な存在ですので、これからも一つ一つに拘りを持って丁寧にブランドを育てていきたいです。それにはこれからも、製造していただいている鯖江の方々や、小売店の方々のご協力があってこそですし、その期待を裏切らないような、いい眼鏡を届けていきたいと思っています。今年はコロナもあり通常の展示会への参加も叶わなかったので、受注のやり方もオンラインでできるようにしたり、新しい展開を色々と考えておりますので、よろしくお願いします。

Webサイトやコンセプトブックなどに使用したキービジュアル撮影での一コマ。

仕立てというコンセプト

数々の有名アイウェアブランドのデザインを手掛けてきた脇聡が、2017年AWに発表したオリジナルアイウェアブランド。仕立て屋(tailor)という言葉を元に考案したブランド名TAYLOR WITH RESPECTには、制作に関わった全ての人へ敬意が込められている。持ち主の体に合わせて丁寧に服を仕上げる仕立て屋のような、掛け心地がよくデザイン性の高いメガネ作りがテーマ。オールメイドインジャパンのフレーム

Reconstruction
of
Tayloring